Love Communication

− 4 −


先にリョーマを風呂に入らせ、その後手塚が入った。
手塚は2人で入ろうかとも考えたが、この時間の間で最後の判断をするつもりでいた。
しかし何度考えてみても、答えは…1つ。
『好きな相手と一つになりたい』

風呂から上がり自分の部屋に入ると、ベッドの上でパジャマ姿のままゴロンと寝転がっているリョーマが待っていた。
「あっ、出たの?」
手塚が部屋に入って来たのを見ると、寝転がっていた身体を起こし、ベッド上に正座した。
「眠いか?」
自分もベッドに腰掛けると、リョーマの髪に指を絡ませる。
「ううん、何か緊張しちゃって」
これから起こる出来事に対しては、少なからず自分も期待していたし、なにより手塚が自分にそんな感情を抱いていた事が嬉しい。
この男にも、人並みに性欲という物があったみたいだ。
「…恐いのなら無理はしない」
指に絡ませた髪にそっと唇を寄せる。
そんな仕種に背筋にゾクリとした何かを感じた。
「恐いけど…平気」
そのまま首に腕をまわし、抱き付いた。
「…リョーマ」
抱き付いた身体を、そのまま優しくベッドに倒す。
「あの…電気消して欲しい…」
明るい中での行為が恥ずかしいのか、灯りを消して欲しいと手塚に訴える。
そっとベッドから離れると、部屋の灯りを消した。
リョーマの申し出を手塚は快く受け入れた。
「逃げるのなら今しかないぞ」
灯りを消した手塚は、ベッドの上のリョーマに最後の選択を迫った。
ギシリと音を立て、ベッドの端に座る手塚。
「…逃げないよ」
ポツリと呟くリョーマ。
ここで逃げても、手塚はリョーマを責めたりしない。
このままの関係でも、2人は何も変わらないだろう。
しかし、二度とこの先に進まなくなるかもしれない。
手塚としては、リョーマに無理強いはしたくない。
それでも愛する人と1つになりたい欲望がある。
リョーマとしては、恐い気持ちもあるが、好きな相手ともっと一緒にいたい。
互いの気持ちは一致していた。
「…リョーマ」
「国光…」
ベッドに横たわるリョーマに口付ける手塚。
その口付けにそっと瞼を閉じた。
それが合図となり、手塚はそっとリョーマのパジャマのボタンを外す。

ボタンを外しながらも口付けは、額、瞼、頬へと降りて最後に首筋に顔を埋めた。
「…ッ」
チクリとした痛みにリョーマは小さく声を上げた。
首筋から顔を上げると、そこには一つだけ赤い華が咲いていた。
白い首筋に自分が付けた華を見て、手塚は何とも言えない征服感を感じていた。
するりと、右手をリョーマの薄い胸にあてる。
「鼓動が早いな」
そのまま、胸の飾りにそろりと指を這わし愛撫する。
「…あ…」
端にピクンと反応を返す。

リョーマは初めて感じた快感に、声を抑える事が出来なかった。
手塚はそんなリョーマの表情に満足した笑みを浮かべると、反対側の胸に唇を寄せた。
何時の間にか、パジャマは上下ともベッドの下に落とされていて、手塚も同じ様に全てを脱ぎ捨てていた。
どこに触れてもリョーマの肌はしっとりとしていて、極上のシルクのようだった。
「…ん…やぁ…」
そろりと内股に手を這わせば、いやいやをするようにリョーマは身を捩った。
だがそれは否定ではなく、強すぎる快感に自然と身体が動いてしまっただけだった。
その証拠にリョーマはシーツを握りそれに耐えていた。

「リョーマ」
「あっ…」
手塚がリョーマの幼い性に手を伸ばした途端、リョーマはビクリと身体を震わせた。
自分が与える愛撫を、しっかりとその身で感じてくれている事が、なによりも手塚を歓喜させていた。

その先の事は、あまり良く覚えていない。
ただ、手塚の優しい手や唇が自分の身体に触れるのが嬉しくて、最後に感じた痛みにも『嫌だ』という気持ちは生まれなかった。

「……ん…」
意識を飛ばしていたのか、気が付いたら手塚の腕に支えられベッドに横になっていた。
外はまだ真っ暗。
どうやらそれほど長い時間、気を失っていた訳ではないみたいだ。

「…あ…れ?俺…」
声もすっかり掠れていて、先程の行為を思い出させた。
「大丈夫か?」
目を覚ましたリョーマを労わるように問い掛ける。
そっと頬に触れる指先は、火照った身体には丁度良い。
リョーマは目を細めて、その感触を味わった。
「…うん…ッ…」
手塚の腕の中で動かした身体に走る痛みに、少しだけ顔を歪ませる。
「まだ、早い…ゆっくり休め」
痛みに固まった身体を解すように、ゆっくりと背中から腰を撫ぜる。
その手に導かれるかのように、リョーマはそっと瞼を閉じて、夢の中に入っていった。
「…俺もまだまだ…だな」
寝息を立てたリョーマの頬にそっと唇を寄せて、この小さな身体に溺れてしまった自分に失笑を浮かべる。
身体を重ねる行為など、もちろん初体験。
しかも同性同士で、どこまで快感を味わえるのか不安があった。
それなのにリョーマの身体はとても柔らかく、どこに触れても自分の手にしっくりくる。

まるで、自分だけに誂えたような感覚になっていた。
「…手放す事など出来そうも無い」
リョーマを腕の中にしっかり抱き込むと、自分も寝る事にした。


「…ん〜?」
窓から差し込む朝日に、目覚ましより早くリョーマは目を覚ました。
目の前には大好きな相手の寝顔。
リョーマは目をぱちくりさせて、その表情を眺めていた。
「…きれーな寝顔」
手塚の寝顔を見たのは初めてだ。
普段から秀麗な顔は人々の視線を集める。
それは、手塚に限った事ではなかったが。
リョーマはぼんやりと見惚れてしまっていた。
「…?」
視線に気付いたのか、手塚は目を覚ました。
「おはよう、リョーマ」
「お…おはよ…」
途端に顔を赤らめ、視線を背けるリョーマ。
「どうした?怒っているのか」
まさか自分の寝顔に見惚れていたなんて思う訳が無い手塚は、昨夜の事で拗ねているのかと判断した。
「ち…違うよ…国光の寝顔が綺麗で…」
ごにょごにょと、言い訳を始めるリョーマがあまりにも可愛くてそっと抱き締める。
本当に可愛くて、愛しくて、仕方が無い。
これほどの相手に巡り会える確立なんて、かなり低いものだろう。
「お前の寝顔も天使のようだった」
お返しとばかりに、リョーマの寝顔の感想を述べる。
「なっ…」
その言葉に恥ずかしくなり、手塚の胸元に顔を埋めた。
2人としては特別な朝。
気が済むまでベッドの中でじゃれ合っていた。

既に着替えを済ませた手塚は、上手く動かない身体を持て余しているリョーマの着替えを手伝っていた。
その時にリョーマは昨夜の行為に対して、「うれしかった」と手塚に言った。
「俺…初めてだし…男だから、国光が気持ち良くなってるのかすごく不安だった」
ベッドの端に座り、向かい合っていた手塚に自分の思いを伝える。
その眼差しには少なからず怯えを含んでいた。

そんな心配は全く必要が無いのだが、不安を除く為に手塚はリョーマをぐいと自分の胸元に引き寄せる。
「とっても良かった…」
手塚の一言でリョーマは満面の笑みを浮かべた。
こんな幼い自分の身体でも、手塚が感じてくれたのが何より嬉しかった。
嬉しいついでに、リョーマは手塚を喜ばせる一言を呟いた。
「国光となら、またしたい…」
ふんわりと笑顔を見せながら、リョーマは手塚に手を伸ばした。

初めての経験で腰が立たなくなったリョーマは、1日中を手塚家の中で過ごす事を余儀なくされた。
キッチンでは、遅くなった朝食を作る恋人の姿。
リビングのソファーに、いわゆるお姫様抱っこで運ばれたリョーマは、クッションを抱きながらその姿を嬉しそうに眺めていた。

折角の休みだから、2人でどこかに出掛けようと考えていたリョーマであったが、「こんなコミュニケーションも大事だよね。それに国光と一緒にいられるのなら、別にこれでいいや」と、かなり上機嫌でいた。



互いが互いの事を真剣に想い合っている事に気付いた今、2人の関係はもっと深まっていた。




これが初めて作った塚リョのお話でした。
当時は不二リョの方が好きで、不二リョばかり考えていた。
今では考えられない…。
あ、これでラブコミはこれでお終いです。